お金の使い方

目がお岩さんみたいになり、下唇が今にも破裂しそうに膨れている。蕁麻疹の薬はきちんと飲んでるのに、何に反応したんだろ。タマネギかな。
ここのところお金について考えている。私はわりとお金を使う方だと思う。日々はそこまで使うわけではないが、ちょっとたまると、ドカンと使う。やってみたいこと、見てみたいものには、あっさり使う。いつ頃だっけと思い返したら、前の彼氏と別れた後だった。
彼氏と別れた後、私は冷蔵庫と液晶テレビを買った。6畳の小さなアパートには不釣り合いな大きさのちゃんと野菜室もあって、自動製氷が付いている私の背よりも大きな冷蔵庫と32型のDVDプレーヤー付きのテレビ。小さな部屋に搬入したら笑ってしまうほどの存在感であった。それまで私は、先輩にもらった小さな、ものすごい霜がつくほとんど壊れかけた冷蔵庫と、テレビはパソコンの小さな画面で見ていた。そのパソコンもファンが壊れていて、常時扇風機を当てていないと電源が落ちてしまう。不便だった。
不便なのに使い続けていたのは、当時の彼と結婚するものだと思っていたから。大きな家電は、その時買うから、今は仮の姿。そう思っていたのだった。夢を見ていられれば、耐えられると思った。
別れてみて、私は自分はこれからここで暮らしていくんだ、と思った。地に足をつけた生活がしたい。私は重い腰を上げて、ちまちまと貯めた給料を手に、近くの電気屋に何度も通い、大人買いした。
大きなテレビはハードディスクに予約もできて、ドラマをすごくいっぱい見るようになった。食材は一週間分はゆうにストックできた。ビールもよく冷えたし、忙しい時には鍋をそのまま冷蔵庫に入れられるのが嬉しかった。家を出て8年目にして初めて安定した暮らしをできるようになった。

そして、次に買ったのは焚き火台だった。スノーピークの折りたためるやつ。私は東京のど郊外に住んでいたがさすがに焚き火ができる場所は近くになかった。私は、焚き火ができる場所のすぐ近くに引っ越すことを決意した。ヘンテコなアパートだった。見た目は一軒家。二世帯みたいになっていて、2階部分が私の部屋だった。4方向全てに窓が付いていて、部屋が二つあった。安かったけど、そりゃーもうボロボロで台風が来るたびにヒヤヒヤした。しかも下には変なおっさんとその内縁の妻が住んでいて、夜明け頃に酔っ払って怒鳴る声が全部聞こえるし、夜の営みの声も全部聞こえた。階下の声がこんなに響くなんて、私の生活音も全てバッチリ聞こえているのは確かだった。でも広かったし、ガスコンロは2口だったし、家具を全てきちんと揃えて、充実した暮らしをした。引越しや家具にがっつりお金を使った。

ボロボロだった私は、ボディワークに通い始めた。一回12000円もするもので、当時の私には目ん玉飛び出るくらいの額だったけど、続けた。ボディワークなのだが、同時にそれはカウンセリングでもあり、わたしは身体が改善されるにつれ、こころも少しずつ解放されていった。解放された先にあったのは、自分の過去と向き合う壮絶な日々だったけど、ボディワークに行かなければ、そこにたどり着くことはなかった。

ちょっとした事件があり、2年暮らした部屋を私は出ることにした。私は部屋の条件をクリアにして、条件にハマる部屋を探した。すぐに見つかって、私はすぐに引っ越した。引っ越して初めて、私はその2年暮らしたオンボロの家にものすごいストレスを覚えていたことがわかった。出るまでわからなかったのだ。とにかく階下のおじさんが大嫌いだった。なのになぜか私はアクシデントがあるまでそこを離れられなかった。家賃が2万近く上がってしまったけど、本当に引っ越してよかったと思っている。引越しに際しては、母親にかなりの金額を借りた。今まで一度も母親にお金を借りたことはなかった。でも、どうしても引越したかったので、ものすごくどきどきしながらお金を借りて、また、わざわざ飛行機で来てもらって、初めて引越しを手伝ってもらった。2人でする引越しがこんなに楽チンだとは思わなかった。

今はその部屋で落ち着いた生活をしている。お金は減ったけど、毎日が安定していて、部屋はぼちぼち綺麗に整えられていて、ご飯もきちんと食べられる。お金ってなんだろう。未だに使うのに抵抗感とか罪悪感があるけれど、使うとどんどん自分が楽になる。これからもどんどん使っていこうと最近よく思う。

おしまい