私の同時通訳機能

私には同時通訳機能が付いている。と言っても英語がわかるとかそんな便利なものではない。日本語から日本語に通訳するのだ。例えば、すごいですね、と言われると、通訳機能によって私の頭の中では「すごいですね、ま、私に言わせりゃちんちくりんだけど」とか「私とは違う人間だから近寄らないで」と響いたりする。私は、おお、また通訳している、と思う。

私が今の彼氏と付き合い始めた頃、今ほど英語の知識もなかったので、彼の言うことの本意がつかめない、と思っていた。例えば、Do you want to see me?と言われれば、「僕に会いたいですか?」と訳した後、「会いたいなら会ってやるけど」と頭の中では響き、はあ?何様のつもり?と思ったりしていた。これはよく使うフレーズなので、言われるたびに???と思い、でもどうも彼は悪気があって言っているわけではないというのははっきりしていたので、私は彼に、そのフレーズはどういう意味なの?と聞いてみた。彼ははっきりと「君がそうしたかったらSureって言えばいいし、嫌ならI'm sorry but..って言えばいいんだよ」と言った。私はそうか、彼は別にくだらない主導権争いなんか少しもしてなくて、私が勝手にそんな風に訳してただけなのか。と思った。私はその文章の訳し方を変えることにした。そして少しずつ、他のことについても彼の発する言葉を自分に都合よく訳すようになった。彼の言葉を都合よく訳すと、彼の言っていることはとても優しく、ありがたいと思えるようになった。
たまたま付き合った彼の言語が英語で、理解に時間がかかったので、自分に都合よく訳すことが人間関係に役に立つと気づいたけど、もしこれが日本語だったらと考えるといつまでも気づかなかったかもしれないと思う。そう、日本語を使っている時でさえ、私は訳をしていたのだ。しかも私の日本語文法解釈能力は母国語だけに優れていて、実際聞こえている言葉が頭に響く言葉に同時通訳される。それ故に、頭に響いている言葉が聞こえている言葉だとずっと信じ込んでいた。
自分の頭で響いている言葉だけが、真実じゃない。そうわかってから、私の生活は少しだけ楽になった。同時通訳機能だから、今でも勝手に悪いほうに訳そうとするのだけど、あ、今悪いほうに訳したな?と気づくようになった。気づくことが増えると、通訳機能を手動で切り替えることもできるようになって、徐々に機能の中のデータベースも変わっていっているようだ。

おしまい